桑田佳祐が“原 由子”を語るひととき

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今回、原さんに話を伺った際に音楽に対して妥協を許さない芯の強さを感じたんですけど、桑田さんから見たミュージシャン・原 由子にいい意味での貪欲さみたいなものを感じたりすることはありますか?
「ありますね。彼女は志が高いと思うんですよね。曲ひとつにしても歌ひとつにしても、取りこぼしのないようにとことんやれる範囲内で、だけど100%以上のものを目指そうとするところがあるんですよ。音楽って自分自身じゃないものになれるから、そこを十分わかっているからこそ、自分が持っている以上のものになり切ろうとする執念深さを感じますね。それは彼女が歌に対しても音楽に対しても欲があり、愛があるからだと思うんですよ」
例えば、レコーディング中にもそういったことを感じたりしますか?
「もちろん。歌だけじゃなくて、ピアノを弾いている時にも感じますよ。彼女はバテないんだよね。例えば、よりよいものを目指して音を追求している時に、人によってはもういいかなってバテてしまう人もいるんだけど、彼女はそれがない。もともと勘がいいというのもあるけど、僕が追求するものに対してちゃんと返してくれるというか。すごくいいリフやカウンター・メロディーを作ってくれるし、そこで自分でも納得いかない時は徹底してやるしね。そうやって何回かやっていく中で、やっぱりさっきの方がいいよって僕が言うと、彼女はちゃんとそれも聴き入れてくれる。そういう聴く耳を持っているし、その辺のバランスがとても大事だし、いいところだと思うなあ」
さらに言うと、セクシーな歌も面白がって歌っちゃうような度胸もありますよね。
「そうだね。歌に関しては、おバカになっちゃえ!って部分があるよね(笑)。プライドが邪魔する感じではない。だからいいんだよね。もしかすると「私はピアノ」を歌う時でもそういう部分があったんじゃないかな。当時、サザンはリトル・フィートやエリック・クラプトンが大好きだとか言ってるのに、ザ・ピーナッツ風の歌謡曲を歌ってみることに対して、これは面白いんじゃないかって彼女なりに考えて、納得した上でトライしたんだと思うんですよね」
そもそも桑田さんが「私はピアノ」で、原さんにリード・ボーカルを勧めた理由というのは?
「何でだったっけなあ……。ロックバンドで歌謡曲をやっちゃうのって僕らしかいないよなと思ったところから始まっているような気がするんだけど。そういう気持ちを何となく形にしたのが「私はピアノ」だったと思うんだよね。曲のイメージはザ・ピーナッツで、途中で入ってる“おいらを嫌いになったとちゃうUm〜”っていうのは、クレイジー・キャッツなんですよね。ということは、僕の中で「私はピアノ」は「シャボン玉ホリデー」やナベプロへのオマージュなんですよ(笑)。あの当時、それを僕自身が表立ってできないから原坊を使ってパロディーをやっちゃおうかなって。それで彼女をいじってみたんだと思うんですよね。あとそれ以前から彼女の声質って、ダブル・トラックにすると面白いものになるって気づいていたところもあったし」
そういう発見がボーカリスト・原 由子を生んだわけですね。
「彼女ってコーラスをピッタリ重ねるのが上手いんですよ。ピッチもいいし自分の歌ったものに妙なビブラートやクセがないから。そういう部分が、バンド内でコーラスをやっているうちに、サザンの文脈とは違う形でアルバム中に一曲だけ、原坊ワールドみたいなものをやったら面白いなというのがきっかけかな」
桑田さんが原さんに提供する楽曲は肩の力が抜けていて、楽しんで書いているような気がするんですけど?
「そういうところはあるのかもしれないなあ…。自分が歌うとなると近視眼的になるけど、ちょっとした他人だから引いて見れる楽しさはありますからね」
で、最新曲「京都物語」は、得意な歌謡曲テイストの楽曲ですね。
「そうですね。Act Against AIDSをやっていると、すごく勉強になるんですよ。例えば、昔の歌謡曲。奥村チヨさんの「終着駅」とか聴いてると、あの頃ってだいたいバッキングが意外に16ビートなんだよね。で、時代的にフォークが入ってきたからかもしれないけど、生ギターでハネたアルペジオを弾いていたりする。それを「京都物語」でやってみたかったんですよね。原坊の歌謡曲シリーズでフォークギターテイストの感じのものはなかったから。歌詞は京都旅行でイメージを膨らませて書いたんですよ。“都をどり”を観たり、観光したり…。歌詞の中に京の四季が出てくるのは、“都をどり”の影響なんですよ。僕が観た演目は春〜夏〜秋〜冬でまた春に戻るという京都の四季を踊りで表現してる舞台で、それがすごく感動的だったんですよね。だから歌詞でも春に始まり、春で終わるっていう京の四季を綴ってみたんですね。そこに京都の名所を入れて悲恋もからませたというか」
弦アレンジは原さんなんですよね。
「僕が言うのもナンだけど、彼女は楽器のラインを書く才能がすごくあると思うんですよ。弦の鳴り方や歌に対しての楽器の乗せ方がすごく上手い。たぶんクラシックをやっていたというのもあるだろうし、ポップスが好きというのもあるだろうし。彼女の中で、そういうものがいい感じでバランスよくブレンドされているからなんだと思いますね」
桑田さんが原さんにミュージシャンとしてここだけは負けるということは何かありますか?
「もしかしたら、本気で曲を作らせたら負けるんじゃないかな。僕はビートルズとかクラプトンとかクレイジー・キャッツとか、絶えずステレオタイプ的なものを持っているし、作曲のツールのひとつにバンドという形態が必要なんだけど、彼女はそういうところがないからね。決してパロディー的な感覚では作らないし。例えば、今回のベスト盤でいえば、彼女が作った「少女時代」を初めて聴いた時、スゲー!って思ったから。ポップス作家としての力量の凄みを感じたんですよね。作る時のギターとピアノの違いっていうのがあるだろうけど、もしも同じ条件で作曲したら、原坊の方が断然上なんじゃないかと思いますよ」
今後、原さんに期待することは何ですか?
「彼女はポップスの解釈力が優れた人だし、声もリズムも音程もいい。他の女性アーティストと比較しても何も恥ずべきところはないから…。でもあえて言うなら、さっき話した「京都物語」でセンスのいい弦アレンジを見せてくれたので、今後はもっと自由に、弦のアレンジなんかを突き詰めてほしいなと思いますね」
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インタビュー 大畑幸子
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