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 「そもそもロックンロールって言葉も、ヒーローって言葉も好きじゃないんだよね」
 桑田佳祐は、そう言って笑った。
 その言葉はタイトル・チューンにもなっている「ROCK AND ROLL HERO」の話の流れから出てきたものなのだが、別にそれを否定しているというのではなく、そこには「自分にはロックンロールヒーローなんて似合わない」という自嘲の思いが込められているように思う。
 それは8年振りとなるソロ・アルバム『ROCK AND ROLL HERO』のタイトルにも繋がってくる気持ちだ。しかも、思いっきり皮肉を込めて・・・。
「昔はロックが最高のものだと思っていたでしょ。アメリカ人やイギリス人ってカッコいいなって。だけど、やっぱり、ロックは欧米人のものだと思うんですよね。僕ら日本人はどうしたって彼らみたいにはなれない。だけど、そんなロックに憧がれていた自分もいるし、もちろん、ロックは好きなんだけど。ただね、今はロックンロールっていうものが自分の中にはあまりないんですよ。諦めとかもあるし、半分開き直りもあって、そこで音楽をやっていると思うんですね。ロックンローラーになりたいっていう、二十歳の頃とは違うじゃない?そういう意味でも(アルバム・タイトルにしたのは)、わかりやすいかなと思ってね。"ロックンロール・ヒーロー?""はいはいはい"っていう皮肉。それに"ロックンロール・ヒーロー"って自分で言ってるバカもいないでしょ(笑)。かなりおめでたいよね」
 そんなことを口にしながらも、ソロ・アルバム『ROCK AND ROLL HERO』には、桑田佳祐の中にしっかりと染み込み、脈打っているロックの血が鮮やかに表現されている。60〜70年代の洋楽のエッセンスが随所に顔を出す。そんな様々なアイディアを見事にポップに溶け込ませてしまう柔軟なセンスは、ホントにさすがだなと思ってしまう。
 何よりも今回、桑田は徹底的にロックバンド・サウンドにこだわった。彼のもとにギターの斎藤誠やキーボードの片山敦夫を始めとする、いずれ劣らぬミュージシャンが集結。メンバーはロック少年がそのまま大人になったような人たちばかりで、スタジオではたえずロック談義に花が咲いていたそうである。そんな気の合った音楽仲間に囲まれた心地いいレコーディング環境の中で桑田は学生時代に立ち返ったような感覚を十二分に楽しんだという。互いに刺激しあい、触発しあう。単なる歌とバックという関係性を越えて結ばれた強い絆と信頼。だからこそ、新しい創造の場で生まれたサウンドの数々は、どれも濃密なテンションと豊かな音の広がりに彩られているのだ。
 バンド名は彼自身が、桑田佳祐&○○○といったバンド名に憧れていたということもあって、"桑田佳祐&THE BALDING COMPANY"と名づけられた。ジャニス・ジョプリンがリード・ヴォーカルで参加したビッグ・ブラザー&ホールディングカンパニーになぞられてつけられたわけだが、バンマスとなった斎藤誠がスキンヘッドということもあって、スキンヘッドの意味の"BALD"にひっかけているあたりもシャレている。しかも、この"BALD"には、他にも"飾らない""ありのまま"という意味がある。桑田自身はそこまでこだわっていなかったようだが、結果的にはアルバムそのものがシンプルで飾らない生身のバンド・サウンドを打ち出しているのだがら、彼らの純なロック精神を伴って、このバンド名の味わいがより一層深いものになってくるのは確かだ。
 さて、アルバムに収録された1曲ごとについては別コーナーに譲るとしても、やはり歌詞の世界にも少し触れておきたいと思う。
 物質的な欲望が蔓延する社会矛盾に鋭いアンテナを張り、日常生活に潜んでいる病理や世情を浮き彫りにし、それをイマジネイティヴな表現で辛辣に風刺し、また自嘲もしている歌詞の内容は痛烈だ。
 またその作風も以前よりも柔軟性に富んでいる。ロック・サウンドと日本語を対峙させた時に桑田から溢れ出した和の語り口が実に興味深いのだ。
 桑田は言う。
「日本語をロックに当て込んでいくと、言葉自体もエッジの効いたゴツゴツしたものになっていく。活字で語るような感じになっていって、なんていうのかな・・・・かすりの着物を1枚ずつ着ていくような、そんな和の世界になっていくんですよ。それが自分でも不思議だった」
 言葉を巧みに操り、機知に富んだひねり。視覚的にも楽しめる要素がたくさん盛り込まれている。だからこそ、歌詞を読んで、そこに綴られた活字を追って欲しい。その言葉ひとつひとつからほとばしる情感を感じ取って欲しいと思う。
 個人的に今作を聴いて、桑田佳祐のミュージシャンとしての、また日本人としてのアイディンティティを感じずにはいられない。今現在の立脚点から投げ掛けられた様々な言葉とサウンド。若さにまかせて夢や理想を追い、ひたすらがむしゃらに突っ走っていたあの頃とは違う。それはむしろ、長い音楽の旅を続けながら目撃してきたことや得てきた様々な事柄があればこその、個に向き合った上での純然たる原点への回帰のような気がしてならない。そして日本人のロックの何たるかを示唆しながら、ロック・シーンの中で自らの存在をどう誇示していくのかを明解に宣言した作品であるように思うのだ。
 今現在、桑田佳祐の中に内在したロックのひとつの回答が、新作『ROCK AND ROLL HERO』なのである。
文/大畑 幸子

 
 
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