合言葉
「おはよう」
私はいつものように隣に住む男の子にあいさつをした。彼は私よ
り二つ年下の子。見た目はしっかりしてる感じだけど、話してみ
たら案外子供ぽかった。そんな彼に私は少しずつ惹かれていた。
彼との出会いは私が高1の時。そのときはまだ彼は中3で引っ越
してきたばかりで、その挨拶に来た時に、彼は寒そうな顔をして
外に立っていた。私をじっと見つめる目はなんだか不思議な感じ
がして。その時は今みたいに寒い冬だったと思う。私は彼を家の
中に入れた。それで初めて彼と話をした。受験が近いのに何故こ
こに来たのって聞くと、学校は変わってないし、学校は推薦で合
格した、と。どこの学校受けたの?って聞いたら私と同じ学校だ
った。前はどこに住んでいたの?と聞くとやはり県内から来たと
言って笑っていた。
すべてはそこから始まっていたのかもしれない。
その日から二年間、今まで会わなかった日がないってくらい会っ
ていた。でも、私はもうすぐここから離れ東京へ行かなくてはい
けない。それは進学のためもあるけど、親も転勤で上京すること
になっていた、という理由もあった。結局は行かなきゃならな
い。私のためでもあるけど。・・・それで私は初めて彼を誘って
みようと思って昼休みに彼の教室へ行った。そしたら彼はいつも
のように笑っていて私を迎えてくれた。
「今日の夜は・・・暇?話、あるんだけど・・・」
「はい、大丈夫ですよ。・・・でも、センパイ、受験勉強あるん
じゃ・・・?」
「私のことは気にしなくていいから。あ、時間はメールで送る
わ。もう戻らないとやばいし。じゃあね!」
そう言い放ち、教室を立ち去った。
私は学校が終わるとすぐに彼にメールを送った。そのメールで会
う時間を七時に指定した。今、親は忙しくて全然帰ってこないか
ら私の時間はいつでもいいけど、彼の家にはちゃんと親が帰って
きてるからそのぐらいがいいだろう。彼だって部活があるんだか
ら。でも、一刻も早く会って話がしたかった。そして、彼はまじ
めだから、指定した時間に家のチャイムを鳴らしてくれた。ドア
をあけるとそこには嬉しそうに立っている彼がいた。その顔をみ
ると無性に悲しくなって涙が出そうになったけど。外に行こうっ
ていう事になって、外を二人でずっとフラフラ歩いてたら突然彼
が口を開いた。
「センパイ、話って何?」
彼らしくもなく、気遣っているようだ。
「・・・あのね、私、東京行くの」
声が震えてそれだけしかすぐに言えなかった。
「大学・・・ですよ、ね?俺はセンパイが行きたい所に行ってほ
しいから何も言えない・・・それを止める権利は無い・・・」
「聞いて。大学だけで行くのが決まったんじゃないの。親が転勤
で丁度時期が合ったから一緒に行くことになったの・・・だか
ら、アナタとはもう、会えないかもしれない」
「!!え、・・・・センパイ?」
彼は声を震わせて話す私に驚いたのかもしれない。かなり動揺し
ていた。私は私で自分の震える声を誤魔化す術もなく、そのまま
話すしかなかった。
「私、・・・アナタにうまく伝えられないけど・・・ずっと幸せ
だったから・・・ごめん、言いたいこと、たくさんあったの
に・・・もう、訳わかんなくなっちゃった・・・」
言葉も出なくなって、俯き加減になると、そっと彼の腕に包まれ
た。
「センパイの言いたい事はわかります。・・・俺も同じだから。
だから、泣かないで」
「うん」
ギュッとしがみついた彼の胸はとても温かくて、安心できた。
もう、大丈夫だと。もう、一人なっても歩けると。
時間が許す限りそうしていた。
そして、卒業式も終わり、私は大学も無事、合格し、東京に来
た。最後の日は彼に会えなかったけど、メールが届いた。私は彼
が受験シーズンに入ったらドキドキして待っているのだうか、と
思って画面をそのままにギュッと携帯を握り締めた。そのメール
には「俺が大学に受かったそのときにはアナタを迎えに行きま
す」と書かれていて、涙が溢れた。
私は「アナタが迎えに来てくれると信じて何年でもその冬がくる
のを待っているでしょう」と送った。
いつか来るだろうその日まで、そして、朝、彼に合言葉を再びい
える日をずっと待ってるだろう。そして、その頃には今より大人
になってるだろう。
幾日も過ぎ、私は大人になって・・・そして。
「おはよう」
ある日の寒い夜、彼は私の家のドアを開けて言った。
私は彼の大きくなった胸に飛びついた。
その日は初めて会った日と同じ、雪の降る寒い日だった。
おはり。
2001-10-27 杉茄彌
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