「ホワイト・イルミネーション」
東京〜札幌の遠距離恋愛を始めて2カ月。ふたりの最初の冬の
思い出は彼の居る札幌で作りたくて、仕事納めがすんだ足で、私
は飛行機に飛び乗った。着いた日の夜は、ものすごい吹雪。「食
事をする店まで車で行こう」という彼に、「せっかく来たんだか
らホワイト・イルミネーションの中を歩きたい」と、私は半ば強
引にお願いした。
「いいけどさ…後悔すんなよ?」
苦笑する彼の言葉の意味は、ホテルを出て歩き始めてすぐわか
った。顔を叩きつけるような雪に、目を開けているのも辛い。
「ホワイト・イルミネーションを見ながら、手を繋いで歩こう」
…そんな私の甘い期待は、雪に容赦なく裏切られてしまった。
吹きつける雪を避けてうつむいたまま足早に前を歩く彼。その
背中を追いながら、未練がましくキラキラ輝くイルミネーション
を横目で確かめては、足元を滑らせる私。
「ちゃんと前見て歩いてる?」
小さく悲鳴を上げてばかりいる私に、彼は少しイラ立ち気味に
声をかける。
「ちょっと後悔してるだろ」
「……ううん」
そうそう遠出が出来ない私にとっては、これが最後のホワイ
ト・イルミネーションかもしれない。私は無理矢理にでも、この
光の風景を覚えておきたかった。彼の姿と一緒に。「意地っ張り
だなあ、美保は」と笑う彼には、何も言えなかったけれど。
翌朝、東京へ戻る私を見送ってくれる彼と、札幌駅の改札口で
予定通りの笑顔で別れをすませて空港へ。予定通りの幸福感を胸
に、飛行機へ乗り込む…はずだった。
なんと、飛行機は悪天候のため欠航。私はまた、雪に裏切られ
てしまったのだ。
『どうしよう…。夕方まで待ったけど、欠航だって』
仕事中の彼に携帯メールを送ると、すぐに彼から電話が来た。
ホテルを探しておくから札幌へ戻れと言う。再び札幌行きの切符
を買いながら、私はかなり動揺していた。また彼に逢える…で
も、2晩続けて彼が仕事を抜け出すことはあり得ない。今夜はき
っと独りだ。予定になかった独りの寂しさに、私は耐えられるん
だろうか…?
そう、やっぱり私は耐えられなかった。「すぐ戻るけど」と仕
事を抜けて来てくれた彼をホテルの部屋のドアから送り出しなが
ら、私はぐずぐずとドアを閉めることが出来なかった。その気配
に、彼の足音が止まり、また近づいてくる。
「……美保」
「……なんで戻ってくるのよ……っ」
彼が私を抱きしめる。もうその瞬間に私は泣き崩れていた。な
かなか逢えない寂しさを、彼にあたることはしないと付き合い始
めに誓った。この札幌でのデートも、楽しい思い出のままで終わ
らせる予定だった。泣きじゃくる私なんて予定にない…!
「ごめんなさい、ごめんなさい。引き留めたくなんかない…」
謝りながら泣き続ける私を、彼は黙って抱き留めていた。しば
らくたって私が泣き疲れた頃に、おでこにそっとキスをして、小
さな声で「ごめんな…」と言った。私は首を振り、身を引き剥が
すように彼から離れ、黙ってドアの外へと彼を押しやり、ドアを
閉めた。
その夜は、くっきりと冴えていた。空の星も、街の灯りも、ホ
ワイト・イルミネーションもまぶしいくらいだった。大通公園に
は観光客の家族連れやカップル、仲間同士が溢れて賑わってい
る。予定では、こんな光景の中のひとつに、私と彼もなるはずだ
った。
「すみませーん、シャッターお願いできますかあ?」
ひとりでうろついている私は、格好のターゲットなのだろう。
何度目かのカップルの「お願い」に、私は無言でうなずき、カメ
ラを預かる。
「はい、撮りますよー。チーズ!」
光の造花の前で微笑む恋人達。それは、昨夜叶わなかった「予
定通りの私たち」の姿だ。私は見知らぬ恋人達の写真を撮りなが
ら、撮ることのなかった私と彼の笑顔を、心の中で重ねて焼き付
けていた。何枚も、何枚も……。
2001-10-18 美保
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