桑田佳祐/白い恋人達 あなたの冬の恋物語
 
「今年の冬は北海道に行こう。」
突然、主人がそんなことを言い出したので、娘は大喜び!
勤続20年のご褒美に会社から旅行券が出たのだ。

私の住む、この街では滅多に雪は降らない。
積もる事なんて、それこそ2、3年に一度。
野山を全て白く覆い尽くす大雪原を見たら、8才の娘はなんて言う だろう?
・・・もっとも、私自身、北海道には、まだ一度も行ったことが ないのだけれど。

出発の日、朝早く、ターミナル駅へと向かった。
タクシーから大きなバックを持って降りると、 ちらちらと雪が舞っていた。
「お母さん!雪だ。」
旅に浮き立つ気持ちを更に高揚させて娘が叫ぶ。
「そうね。でも、北海道では、もっと降ってるわよ。」
そう言うと、娘はキラキラした瞳を、もっと輝かせた。

その瞳を見て・・・
私も、こんな瞳をして雪の降る空を見上げたことがあると思い出 した。
あれは・・・
もう、ずっとずっと昔のこと。
初めて好きになった男の子と初めてデートした寒い冬の日。
ふわふわと風に乗って舞い降りてきた白い天使達。
全てが薔薇色に見えたあの時、世界が私達を祝福してくれている ようだった。
寒いはずなのに、全然、寒くない。
とても暖かで、ドキドキして・・・幸せだった。

だけど・・・
別れは、突然にやってきた。

彼は私を気遣ってか、ギリギリまで北海道の大学に進学すること を隠していた。
いきなり、別れを切り出された私には、とてもひどい裏切りとし か思えなかった。
同じクラスのMという女の子も同じ大学に行くと知って、尚、許せ なかった。

彼が旅立つその朝も、こんな雪が降っていた。
喧嘩別れのようになったままだった彼に、一言、声を掛けたく て、私は駅までやって来た。
ドキドキしながら、彼が現れるのを待った。
でも・・・
両手に荷物を持った彼の隣りには、Mが並んで歩いてい た・・・。

帰り道、涙がこぼれないように上を見て歩く私の顔に、優しく雪 が降った。
豪雪に埋もれてしまいたい気分だったけど、
雪はあくまでも優しく、何度も何度も私の頬を撫でてくれた。

行きの飛行機の中、
今までずっと胸の奥にしまい込んでいたことを思い出してしまっ た。
「どうしたの?お母さん。酔った?」
娘の声に、慌てて首を振り、笑顔を作る。

温泉もカニもスキーも大満足。
だけど、娘の手を引いて空港に降り立った時も、
「ああ、この風景を彼も見たのかしら?(Mと)」
「この凛とした空気を彼も吸ったのね。」
そんなことばかりを思う。

もう、彼は北海道にはいないかもしれないのに。
通りを歩いていて、どこからか声を掛けられることを密かに期待 している・・・。

「おかあさん!こっち、こっち!」
スキー場で雪遊びをしていた娘が真っ新な新雪が広がる場所を捜 してきた。
「こうやって、バターーンって倒れてごらん!気持ちいいよ!」
きゃっきゃっと笑いながら、何度も倒れ込んで人型を作って遊ぶ 娘。
見ているうちに、私もやってみたくなった。
思い切って雪に倒れ込むと、驚くほど優しく雪が抱き留めてくれ た。
大地に抱かれるって、こういうこと?

雪はいつも優しかった。
私の、あの幼い恋の全てを知っている。
ただ、彼のことだけが好きだった私の真っ白な気持ち。
雪の上に倒れるなんて、子どもっぽい遊びをしてしまったからだ ろうか。
幼かった、あの頃の私に気持ちが戻っていく。
素直に・・・
もう一度、あの人に会いたい。
そう思って、ゆっくりまぶたを閉じると、
ひとしずく、涙がこぼれた。

「おかあさん、おかあさん!大丈夫?」
倒れ込んだまま動かない私を心配して、娘が揺り動かした。
「うん。大丈夫よ。」
雪の上から見上げた娘は
ピンクのスキーウエアを雪で真っ白にして、
髪にも粉雪がいっぱいついて、それが陽の光にキラキラと輝い て・・・
まるで白い雪の天使のようだった。

微笑む天使が差し出す手につかまり、
上体を起こして見上げた空は、
白い雪に、よく映えて
どこまでも青く。青く。澄んでいた。
 
 
2001-10-11 めるりん
 
 
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