桑田佳祐/白い恋人達 あなたの冬の恋物語
 
『イヴの奇跡』

約束の場所、約束の時間、そして約束の服を着て、私は今年も 愛しい彼を待つ。5年前から毎年同じように、プレゼントの真っ 赤なバラの花束を抱え、彼を待つの。
そしてもうすぐ・・・。

私の彼は、山登りが大好き。私の心配をよそに、毎年雪山へ旅 立つ。とても心配で出来れば行って欲しくないのに、彼の大好き なものを取り上げる訳にもいかず、私はいつも渋々彼を送り出 す。5年前の冬。例年の様に彼が言った。
「山に登って来るよ。クリスマス・イヴには必ず帰るから。」ま たか・・・と呆れつつ「はい、はい。気をつけてね。」と言う と、「今年のプレゼントは何がいい?俺が帰って来るまでに決め とけよ。」と憎らしい程の笑顔で成田から飛び立って行った。

そしてクリスマス・イヴまで数日というある日、彼から電話が 入った。「元気?予定通り24日に帰るから、いつも通り待ち合 わせしよう。」変わりない優しい声にほっとした私は、幸せな気 分で電話を切り、その余韻に浸りながら眠りについた。
う〜ん、今年のプレゼントは何にしようかなぁ・・・。

待ち焦がれたクリスマス・イヴ。今日も雪。
私は小走りで待ち合わせの場所に向かった。2人が初めて出会っ た赤煉瓦の停車場、夜7時。お気に入りの真っ赤なコートで彼を 待つ。真っ白な雪の中で、彼が私を見つけやすいように・・・。
夜7時半を過ぎても、まだ来ない。んもう、遅刻だな。遅いぞ。 早く来ないかな。
8時の鐘が鳴った。幾ら何でもちょっと遅い。何だか今夜はやけ に冷え込む気がして、私は肩をすぼめ、空をずっと見ていた。 そして・・・、12時の鐘が鳴り、イヴが終わる。立ちすくむ私 の上に雪が降り積もり、真っ赤なコートが真っ白に変わっただけ で、彼は来ることはなかった・・・。

家に戻ると、1通のハガキが届いていた。
『クリスマス・イヴ、君に会ったら、言いたい事があるんだ。と ても大切な事なんだ。待っていておくれ。必ず君を迎えに行くか ら。』それは彼からの手紙。
どうして?何故?何故来てくれないの?私の事嫌いになった? どうしようもない痛みに耐えかねて、私は泣いた。

彼から何の連絡もないまま、数週間後私の元に、彼のお母様か ら小包が届けられた。メモには、雪山で彼の登山バッグだけが発 見されたとあった。そして箱の中には、小さいけれど輝くダイヤ の指輪。裏には私と彼の名前が彫られていた。

・・・証拠もないのに、信じろと言うの?彼はもういないと、ど うやって信じればいいの?きっと何処かで生きている。彼ちょっ とドジだから、荷物を置き忘れただけ。明日にでも、ひょっこり 私の元に帰って来るのよ・・・。信じない、絶対に信じない。 だって、約束したもの。イヴには帰って来るって。私の所へ帰っ て来るって。ほらもうすぐ、「ごめん、ごめん」って顔をくしゃ くしゃにして、私を抱きしめに来てくれる。
きっと来る、きっと・・・。

今も信じてる、イヴの夜の奇跡。「待っていておくれ」という 言葉を胸に、私は毎年同じようにここで待つ。大丈夫。ひとりで も。心折れない様に、負けない様に、いつか彼が帰って来るとい う希望を抱いて・・・。
ねえ、空からでも見えるでしょう?真っ赤なコートが見えるでし ょう?貴方へのプレゼントはバラの花束にしたの。雪が降り積も り私が埋もれてしまっても、花束を空にかざせば、ほら、ここに 私が見えるでしょう?
ただ、逢いたくて・・・。切なくて・・・・。恋しくて・・・。
そしてもうすぐ・・・、今年もまたクリスマス・イヴが終わる。
 
 
2001-11-29 さとこ
 
 
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