桑田佳祐/白い恋人達 あなたの冬の恋物語
 
おばさんが忘れられないのは、今から四半世紀の2/5くらい前の、 2月3日の思い出だ。

その日は、恐ろしく寒かった。
おばさんは当時大好きだったバイト先の先輩をようやく落とし、 彼の前ではテーブルマナーに気をつけたり、日頃使い慣れている 堕落した言葉を慎むよう(アノ時も含め)細心の注意を払いなが ら慎ましく振る舞い、そして毎夜毎夜遊び暮らしていた。

さて、その2月3日である。

強烈に寒いその日に限って、ラブリーな彼は海を観に行きたいと いう。今思えば、激寒に歯をカチカチしていた私を前になんて奴 だと思うところだが、おばさんは当時、若かった。聞いた瞬間 「いいね!ロマンチックだよね!ちょうど海行きたいなって思っ てたんだー!気が合うよね★」と、驚くべき変わり身を遂げる術 なども駆使してしまい、見事真冬の夜の海に行くことになった。

行く先は、今でいうお台場近辺・・・要するに芝浦ふ頭のあたり である。

彼が公園で車を止めた。「ついたよ。」

車から降りた瞬間、切りつけるような海風が容赦ない。卒倒しそ うな位、寒い。死ぬ、死んでしまう!!今のおばさんなら、絶対 死んでる!着ていた安物のダッフルコートなど、
0.000000000000001度の足しにもなりゃしないくらい寒い。
それでも、一応ここまで来たんだからと、右手と右足を一緒に出 しながら歩き、岸壁で並んで座り込むところまでは到達した。

・・・しかし、寒い。寒すぎる。

夜景もクソもなく、ただ寒い。誰もいないのがなお寒さ倍増だ。
彼もさすがに寒いようで、ひたすら漆黒の闇が広がる海を眼前 に、何も言えずに固まっている・・・・・・

とその時!
背中に「バチバチバチッ!」という音がした。
いてー、なんかあたった。なんだなんだ??

恐る恐る振り向くと、背後10Mくらいのところに我々より5歳くら い年上のカップルがいた。しかも男は、鬼の面をつけ両手を腰に あてて「ワハハハハ」といっている。耳には当然輪ゴムが見えて いた。
年上のおねーさんが、言った。

「あーよかったぁー。人がいて(^o^)」

訳もわからずそのまま話を聞くと、今日は節分なのよ、だから私 たちと一緒に豆を蒔きましょう! 人がいなくて探してたのよぉ ♪、ときっぱりはっきり言うではないか。

・・・・・・・・・・・・・・・。

若かったおばさんの中に、メラメラと復讐の炎が燃えた。今だっ たら「激寒のところ、絶好の救出チャンスをくれて有難う!!」 と感謝しているところだが、寒いのは棚に上げて、彼とふたりっ きりのところを邪魔されたのが許せなかった。しかも、さっきの 豆の一部は私の首から流れ落ちブラジャーのあたりでヘンに止ま っていて、どうにもこうにも気持ち悪いため、憎さも確率変動で UPである。

よし、ここは見ず知らずの人に豆をぶつけるこの鬼カップルをこ らしめてやろう。私もあんた達に豆をぶつけてやる。私は元バス ケ部だから、球技には結構うるさいのを解ってないね君達。ふふ ふ、人の恋路を邪魔する奴には天誅なのだ!

「いいですよー!」とにっこり笑い、私の復讐戦が決定した。

当然、横で静観を決め込む彼も道連れである。男たるもの、私を 豆からかばわなければいけない義務があるからだ。私の鋭い無言 のまなざしに、彼も覚悟を決めてくれたようだ。最高、彼!!

早速おねーさんの手元にあった10袋以上の豆の袋を均等に分け、 ゴングである。雪合戦の要領で豆当て合戦が開始された。

・・・しかし、奴らはズルかった。
豆まき、いや、豆当てのプロだった。なぜか鬼の面をかぶったあ っちの男が私を標的にしてきて、豆を当てに来る。こいつがどう いう訳だか全力で当てにきており、半端じゃなく痛い。寒いので 更に大変痛い。その上露出している首とか顔とかも容赦なく狙う コスい奴で、ブラジャー周囲の豆もやたら増える。「・・・こい つ、もしやゴルゴ!?」と真剣に思ったくらいの殺意を感じなが ら、愛しき彼の姿を心配して振り向いたその一瞬!

・・・そこには私とは全く違うユートピアがあった。

何と、あっちのおねーちゃんと「きゃーやめてぇ♪」「まてぃ 〜」なんていいながら楽しげに鬼ごっこしてるではないか!! 何たることだ!!・・・しかし、それを悠長に観察している余裕 はない。私は鬼に追いかけられており、保身で精一杯である。鬼 は相変わらず「ガオー」しか言わないが、絶対私を殺しにきてい る。だってあいつはゴルゴなんだから・・・。


・・・長い長い10袋が終わった。

「あ〜楽しかった!また来年も来てね!バイバイ!」と女は言 い、まだ隠し持っていた豆袋をしこたまくれて、去っていった。 鬼も楽しんだようで、横でまた「ワハハハハ」と歓喜のポーズを しながら闇夜に消えていった。

背後を見送りながら、
 
 
2001-10-07 いしのりちゃん
 
 
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