桑田佳祐/白い恋人達 あなたの冬の恋物語
 
三年前のクリスマスイブの夜、僕は大学のゼミの女の子と 待ち合わせをしました。
知り合って一年以上になるのに、初めて彼女と待ち合わせ。
思い立って誘ったこの日は特別な一日でした。

車が向かったのは冬の日本海。進むにつれて、 目の前はどんどん暗く、静かになっていきました。
三時間ほど走ると、目の前には漆黒の海が広がっていまし た。
初めてきた冬の日本海。でもなぜ今日だったのか。
僕にはわかりません。
海を見たかったという理由以外は。

ふと時計を見ると、時間はもう九時前。
彼女は何も言わないけど、とても怒っている様子です。
何も食べていないし、寒いし、ツリーは見えないし・・・・
僕は慌てて、食事の出来るところを探しました。
ところがもう辺りの店は全部しまっています。
開いているコンビニもありません。
慌てていた僕は、車をあっちへこっちへ走らせ、 辺りをぐるぐる回っていました。
ところがそのとき、僕の車が、溝にはまって 出れなくなってしまったんです。
「どうしよう・・・まじでやばい・・・」
僕はもうひたすら謝るばかり。
「学校に帰ったら、二度と口をきいてもらえないんだろう な」
と寂しさを感じる暇もないくらい、彼女は 怒りに震えてました。

そのときです。
僕の車がはまっている溝の向かいの家から おじさんが出てきました。
「どうしたんですか?」って。
僕はとりあえず事情を説明して、
「JAFが来るまで、ここに止めさせてください」 と御願いをしました。
おじさんはとても快く「いいよ」と言ってくれて 「寒いから助けが来るまで、うちで休んでて」と さらにうれしい言葉をかけてくれました。 「よかったね」と彼女の目を見て言うことが できませんでした。

家はとても暖かく、悴んだ手が真っ赤になっているのが わかりました。家のおかあさんが「何か食べたんですか?」 と聞いてくれたので、僕が「実はまだなんです」と答えると 「クリスマスなのにまだなの?」と 厳しい一言が帰ってきました。と、そのときお父さんが 「そしたら、蟹食わせてあげたら」と助けの一声。 ほんとうにうれしかったです。

二人のテーブルには イブの日だというのに暖かいチキンではなく、 港で取れたての蟹が三杯ゆであがっていました。
真っ赤にゆであがった甲羅を見ていると、それだけで 幸せな気持ちになれるのに、目の前には 僕の大好きな彼女も座っている。
でも災難続きのクリスマスイブなんだって 自分に言い聞かせました。
おかげで、そのとき食べた蟹の味は一生忘れません。

結局そこの家で一晩お世話になり、不思議な クリスマスイブを過ごしてしまいました。
もちろん彼女とは付き合うこともできないままです。
でも、年明けに学校で再会した彼女は 「楽しいクリスマスイブだったね」と 優しい言葉を掛けてくれました。

 
 
2001-11-14 はる
 
 
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