桑田佳祐/白い恋人達 あなたの冬の恋物語
 
人間の記憶は曖昧かつ不思議なものだ。5年の月日が経った今そ の中に自分を置いてみるとその時は大切だったカレの言葉やぬく もりよりも、どうでも良かった風景や頬にあたる風の冷たさを覚 えている。私にとってその恋はひどく難しかった。カレは私より3 つ年上で私より少し背が高かった。とてもゆっくり話し、良く笑 い、物事と自分との間にしっかりとした距離を置ける人だった。
そして何よりも困難だったのが彼には1人の婚約者がいた。私達の 恋は冬の寒い季節に始まった。カレは彼女と私が両方必要だと言 った。その言葉は妥協や許す事を覚え出した私にとって余りにも 重かったしカレを好きだった私には残酷だった。私達はただ一緒 に河原を歩きどんなに寒くても手を繋いでゆっくり歩いた。凍て つくような寒さの中握っているカレの手も冷たく私の頬も冷たか ったがとても幸せだった。そして春に予定通りカレは結婚式を挙 げた。私は悲しく寂しかったが涙は出なかった。もともと決まっ ていた事だったし、カレは1つもウソはついていなかった。まして や私を裏切った訳でもなかった。ただ腰が抜けてしまった私の隣 で友達が泣いてくれた。
次の冬、彼は東京に転勤になった。遠距離恋愛の始まりだった。 空港で見送るカレに『またね』と言い見えなくなるまで手を振っ た。その後更に展望台まで登り飛行機が見えなくなるまで見送っ た。その微妙な距離がお互いの関係を都合良くさせていった。そ して私の心をどんどん空っぽにしていった。答えなんて何処にも 無い。もともと無いものに答えを求めるから辛い。結局は何処で 自分と折り合いをつけるかだった。私達の恋は静かだった。
気がつけば私は独りだった。昼間歩くのも怖かったし、夜を好む 様になっていた。人を信じる事も忘れていた。5年経った今、私の 冬はこれから始まる。
 
 
2001-11-01 kaka
 
 
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