今まで使ってなかった包装紙でくるんで、みんなに30年のお礼を言いたかった

 既に伝えられている通り、サザンはこの夏、ライヴをやる。日産スタジアムで4日間。動員予定は約30万人。タイトルは「真夏の大感謝祭」である。桑田はここのところ、これまで支えてくれた周囲に対し、よく感謝の言葉を口にする。それがそのままコンサート・タイトルとして掲げられた。それに先だち、新曲が完成した。「I AM YOUR SINGER」。歌詞の中に“それは八月末の…”とあるように、日産スタジアムに向けて作られた部分も大きい。

「そうなんです。あの場所にサザンの“現在進行形”として“今、オレ達がみんなの前でやれること”、“いったい何を横浜に持っていこうか?”って、まずそこから考えて作ったんです。アレンジも、いろいろ悩んだよね。最初ドラムなんかはブラシの音でジャズっぽくザァァァーってやってみたり、全体をスロー・バラードに仕立ててみたり…。要は“どういう推進力で、どのツラ下げてこの夏を駆け抜けようか?”ってことで」

 30年という時間を意識すれば振り返りモードになる。次なるサザンを目指すなら、これまで袖を通さなかったシャツを羽織る勇気も必要だったろう…。

「でも今回は、切々と朗々と“♪30年ですぅ〜、ありがとぉ〜”っていう、そういう方向性でもないんじゃないかって思ってね。かといって“BOHBO No.5”とか“エロティカ・セブン”とか、あのキワどい路線でもない。かつてのサザンとはもちろん違う。2年、3年前のサザンとも、何かが微妙に違うわけだし…。とにかく最初は手さぐりでしたけど、そこに向けてチューニングしていったんですよね」

 そんな紆余曲折を経て辿り着いたのは、『キラーストリート』で見せた骨太のバンド・サウンドとは真逆ともいえる世界観だった。ここに響くのは、シンセ・ドラムもヒュヒュンと踊る、80年代風の打ち込みサウンドだったからである!!

「Perfumeじゃないですけどね(笑)。ちょっとケミカルなポップ・アートを意識しました。スイッチぽ〜んと押したら、みんな楽器なんて置いちゃってね、ヒロシもドラム・キットから離れて、全員マリオネット(あやつり人形)のように前に出てきて踊る感じっていうかね(笑)。そういうちょっとアウトした発想というか、発想を横に跳ばしてみた感じが今年のサザンの夏には似合うんじゃないかと思って。あと、あまりベタベタしたくなかったというのもあって(笑)。」

歌詞に目を転じると、無駄な言葉が一語もないことに気づく。特に、“数えきれないその笑顔”や“ひとりぼっちじゃ夢叶わない”というフレーズからは、サザンのこれまでの、沢山の場面が浮かぶ。

「詞に関しては、当日のライヴを夢想しながら作りました。でも、この30年間というより、ここ数年くらいを簡単に振り返った感覚っていうのかな? “非常に手短ではございますが”みたいな(笑)。」

 とはいえそこには、胸にしみるフレーズが。例えば“数えきれないその笑顔”、そして、“ひとりぼっちじゃ夢叶わない”…。

「もちろん、今までサザンとしてやってきた、そのなつかしさも含めて書きましたけど。“数えきれないその笑顔”だったら、これまでやってきたライヴの、場面場面を思い出しながらの言葉だと思うしね。“ひとりぼっちじゃ”のとこ? 僕だって関口だって、メンバーみんなそうですから。みんなひとりひとりじゃ30年なんて、絶対無理だったから。ちなみに曲タイトルの“YOUR”は、もちろんお客さんのことでもあるし、ステージで振り返ればそこにいるメンバーのことでもあるし、男女の間のことでもあるだろうし。そのあたりは聴く人それぞれに想いを込めて頂ければと思うんですけどね」

 カップリングが2曲。まずは「OH!! SUMMER QUEEN 〜夏の女王様〜」。快汗を誘う、ブリブリのハイパー・チューンである。

「この曲は、サザンのいつもの“夏に呼ばれる感じ”に、自分たちが完全に乗っかっちゃってますけどね(笑)。資生堂のCMのタイアップもあって、そもそもこういう8ビートのマイナー・コードのロックって、下世話さや色々なもの飲み込めちゃう感じがあるんでね。言葉遊びとかも楽しめましたしね。メロディはちょっといにしえのUKっぽいのかな? でもスワンプ・ロックのようなスライド・ギターが入ったりして、きっと今回のライヴでも映えると思います。今回のシングル、普通ならこっちがいわゆるA面(表題曲)になると思うんですよ。でもそこを敢えてカップリングにしてるんです。もしこれがA面だったら、いつものサザンの包装紙かもしれないけど、今回は今まで使って来なかった包装紙でくるんで、みんなに一風変わった30年のお礼を言いたかったってこともありますね。」

そして原 由子作詞・作曲・歌による「すけっちぶっく」。彼女がアーティストとして、再び地歩を固める楽曲になりそうだ。

「原坊とは、“女の作家としての独特の目のつけどころみたいなものが、これからの彼女の音楽人生の中で、素直な形でストレートに出ればいいねぇ”なんて話をしてたんですけどね。あと、次のタイミングで彼女がソロ・アルバム作るときの試金石になるような曲になっていけたらって。どこかから曲を依頼されて単発の仕事として書くのではなく、ひとつの連続性の中での女性アーティストとしての姿が見えるものをね。まあ、ジョニ・ミッチェルやキャロル・キングじゃないですけど。」

時間掛けて前向きに自分達のやれそうなこと探して、再びサザンに戻ってくればいいのかなって

 ここからは、今後のサザンについてお伝えする。“無期限活動休止”と、そんな報道もされた彼らだが、なぜこのタイミングに、ああした報道がなされたのか。その真相に関しても、桑田はハッキリと語ってくれた。

「“無期限”に関しては、肝心なところがなかなか伝わらなかったかな、とは思うんですよね。でもここ(今年いっぱいの活動)から時間を空けずに、サザンとしてドーンと大きなことが始まっていくのかというと、中々その気になれなかったし。ロング・ツアーとかアルバム・レコーディングとか、それを期待されちゃうのなら、“ファンの皆さんにはちょっと事前に断っておかないとな”ってことだったんですよ。それで今回だけはああいうアナウンスを入れたんです。嘘をついてもしょうがないしね。3年前に『キラーストリート』作ったときは、色々な意味でサザンの集大成的な気持ちで、そのあとツアーもやったら、“打ち上がっちゃった”とこはあったんでね。来年以降、再び完全なサザン・モードに行けるかというと、正直、ちょっと腰が重かった。ぶっちゃけた話、私個人的には、しばらくサザンは勘弁してくれよ…ということだったんです(笑)。だってサザンは、この30年の間に色々なこともやってこれたって思うし、今のサザンに関しては湧き上がるようなネタがないなー、というのが正直なところであってね。だから今年は日産スタジアムで4日間限りのライヴやって、それで打ち切って、メンバーそれぞれが自分のやり方で充電し直すっていうのが、一番いいんじゃないのかなって。また、時間掛けて前向きに自分たちがやれそうなこと探して、それで再びサザンに戻ってくればいいんじゃないかなってことなんです」

 終始穏やかに語る桑田の表情は清々しい。そしてサザンは、2008年の活動後、しばらくピットというかドッグというか、そこに入って再び近い将来、我々のもとへ戻ってきてくれるだろう。いや、日産スタジアムはまだこれからなのだ。サザンのライヴに臨席した時にしかハジけない、心の中の八尺玉を炸裂させたい。そう。9月以降の話は、音楽の神様の失笑を買うだけなのだ。(小貫信昭)


桑田佳祐インタビュー

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