楽曲解説 まるで涙の粒を集めて出来たかのような凛とした美しさ。桑田佳祐のニュー・シングル「風の詩を聴かせて」は、優しい手触りに包まれたリリカルなバラードだ。「淡い色の折り紙をパッチワークしていった感じ」と桑田が言うように、アコースティック・ギターやパーカッションなどの楽器が優しい音色を紡ぎ合いながら、淡い哀感をじんわりと滲ませたアンプラグドなサウンドが心地いい。だからなのか、聴けば聴くほど心が浄化されていくのは、メロディーやサウンドに桑田が好きだと言う物憂う静かなる夏の面影がしっかりと描出されているのと、楽曲の繊細さの中に桑田の人間的な温かさを感じるからかもしれない。





 この「風の詩を聴かせて」は、肝細胞がんのために38歳の若さで天国に旅立ってしまった世界的なプロウィンドサーファー、飯島夏樹さんの短い半生と家族の愛を描いた映画「Life 天国で君に逢えたら」の主題歌として桑田が書き下ろした楽曲だ。「久々に海の風を感じる映画にお付き合いさせていただいたのが嬉しい」と桑田は言う。そして「飯島さんやご家族に感じた想いをしっかりと楽曲に下ろしたいと思ったんだ。それが僕の音楽人としての喜びだと思うんだよね」とも。海と風と波を愛した飯島さんが死を前にして最期まで生を全うしていく姿勢や、そんな彼を支えた家族の深い愛情を桑田自身が真摯に受け止め、心からの敬意と尊敬をはらいつつ、歌い綴った。歌詞は残された女性の視点で描かれた。その優しいまなざしは、逝ってしまった最愛の人に向けてのラブレターのような気がしてならない。深い哀しみを抱えながらも、それを乗り越えて未来へ歩き出そうとする前向きさ。そしていつかまた逢えることを信じて誓う…。そんな強さがアコースティカルなサウンドに乗って温かい歌心とともに伝わってくるのだ。





 この「風の詩を聴かせて」で、すっかり身も心も洗われるような気分に浸っていると、次なるカップリングの「NUMBER WONDA GIRL〜恋するワンダ〜」で、たぶん火傷する。なんといってもそこに描かれているのは、フェロモンがムンムンと沸き上がってくる狂おしい真夏のエロス。ライヴを想起させるほど、桑田節炸裂のダンサブルでスペクタル感溢れる情熱的なサウンド、愛撫しあうグルーヴに思わずニンマリとしてしまう。さらにもう1曲は、「MY LITTLE HOMETOWN」。レゲエやスカを基調にした夏の匂いがするサウンドに、桑田の中に脈々と生き続けている茅ヶ崎の少年期の原風景をスケッチした歌詞が呼応する。エンディングの“どっこいどっこい”の掛け声は『茅ヶ崎甚句』。そこに重なる花火の音が去りゆく夏の侘しさを助長させている。

 前作「明日晴れるかな」でも3曲3様の世界観を見せてくれていたけれど、このニュー・シングルでもしかり。涙して、燃えて、郷愁に浸る。そんな風に様々な彩りで魅せた3曲の“それぞれの夏”を、たっぷりと味わえるシングルだ。

大畑幸子

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