Stage Report
 
   

始まり
 人が「旅に行こう!」と思い立ったと同時に、その人の旅が
始まるように、コンサートはその情報を知ったときから、すで
に始まっているものです。その意味でいえば、今回のコンサー
トは、2年前にすでにスタートしたといえるかもしれません。
それは2004年のAAAコンサート「THE GOLDEN AGE OF
BRITISH ROCK〜愛と青春の英国ロック〜」の終わりに、桑田
さんが「また逢おうね!」と叫んだときから、今回のコンサー
トがスタートしたのです。 そして、2年と言う長いイントロダ
クションとともに、Act Against AIDS 2006 桑田佳祐「星条
旗よ永遠なれ!?〜私のアメリカン・ヒーローズ」が現実のもの
となりました。イントロは長ければ長いほど、本編への期待が
募るもの。ここにコンサートの実録を、心を込めてレポートさ
せていただきます。
ロビーにて
 会場は、桑田さんお気に入りのコンサート会場、パシフィコ横浜国立大ホール。海辺に隣接し、会場からも湾を行き交う船を眺めることができます。また、すぐ隣には巨大な観覧車がイルミネーションを放ちながら、静かに回っています。どことなく異国情緒が漂うのは、横浜だからでしょうか。
 このパシフィコ横浜国立大ホールは、観客にとって、とても快適なホールです。入口を入りロビーへと進めば、まず驚くのが、その広さと天井の高いこと。とても開放感があるロビーなのです。今回も、このロビーには、いくつかの展示物がありました。まずはHIVに関する展示スペース。「世界のHIV感染者数は、約4,030万人」「HIVの感染は、手を繋いだり、キスをしても感染しません。感染は主に性的接触によって起こります。だからコンドームが役に立つのです」「もし、不安になったら、保健所に行きましょう。匿名かつ無料でHIVの検査が受けられます」など、多くのエイズの知識が得られる展示でした。また、その隣には、「メッセージ・ボード」があり、多くの人たちが書き込みをしていました。「みんなで真剣に考えよう!」「子供達にしっかり教えるために、まずは自分がしっかり学ばなければ……」など、いろんな意見が書かれていたのが印象的。
 そして、ロビーを見渡すと、中央に長蛇に列。今回のAct Against AIDS 2006 桑田佳祐「星条旗よ永遠なれ!? 〜私のアメリカン・ヒーローズ」のオリジナル・グッズ、Tシャツやスポーツ・タオルを購入する方々の列です。中には、購入したばかりのTシャツをその場で着替える方々も多く、Tシャツの胸に書かれた“AAA”の文字が、ほのかな連帯感の花を咲かせていました。

 
ステージ
 会場内に入ると、まず目に付いたのが、そのステージ・セット。ステージの前面に有刺鉄線のついたフェンスが張り巡らされています。右側には「US. ARMY」左側には「United States Army Camp YOKOHAMA」の看板。つまり、ステージが米軍キャンプになっているのです。そして、ステージの上部を見上げれば、左上部にジェット戦闘機、右手上部には戦闘用ヘリコプターが客席を威嚇しています。今でも日本国内には、このような米軍キャンプがいくつも存在しています。それらのキャンプは、このステージと同じく、周囲がフェンスで覆われています。「フェンスの向こうはアメリカ!」と誰かが言ったのを覚えています。そのフェンスを越えれば、そこはアメリカ。使用される紙幣はドル。飛び交う飛行機はアメリカの軍用機。そして、そこで流れる音楽はアメリカン・ポップス。戦後、日本の若者達が米軍キャンプのフェンスから洩れてくるアメリカ音楽に耳を傾け、それが今の日本のポップスの土台になっていることを忘れてはいけません。

 
BGM
 開演前にロビーや会場内でかかっているBGMは、本編の伏線ともいえる大事な要素。今回は「The Weight / The Band」「Saturday In The Park / Chicago」「A Horse With No Name / America」「Light My Fire / The Doors」「China Grove / The Doobie Brothers」「I Wish I Was In New Orleans / Tom Waits」「Tapestry / Carole King」などが流れていました。多分、この中の幾つかの曲は、桑田さんが今回やりたかった曲であったに違いありません。そもそも今回のために当初検討された曲は150〜200曲とも……そして、BGMは「Born In The U.S.A./ Bruce Springsteen」へ。この曲がコンサート開始の狼煙。

 
コンサート実況
 アメリカ国歌が流れるとともに、スクリーンに靡く巨大な星条旗。そこに「世界の冠たるアメリカ」「自由の国アメリカ」「病み行くアメリカ」そして「私が憧れたアメリカ」、多種多様なアメリカが浮かび上がります。続いて聞こえてきたのが日本国歌。2つの国歌、2つの国旗、2つの国家、その2国の関係と歴史が浮かんできます。そしてショーの始まりです! 3人の男性コーラスを従えて、赤いジャケットを着た桑田さんが登場!

 まずは基地の柵の中で1曲、The Four Seasonsの懐かしいヒット曲「Sherry」。まさにフェンスの向こうから聞こえるアメリカの世界。全編ファルセットで歌う桑田さんは初めてかも? 続いて2曲目はBuddy Hollyの「That’ll Be The Day」。今回の曲目リストの中では、一番古い曲。ちなみに1958年に作られた曲ですが、少しも古さを感じさせず、そのシンプルな曲の構成が逆に新鮮。3曲目はRoy Orbisonの「Oh Pretty Woman」。この曲は映画『プリティ・ウーマン』効果か、観客にもお馴染みの曲。イントロから大きな手拍子が湧き上がり、早くも会場はヒートアップ!

 3曲目を終えて最初のMCタイム。桑田さんが学生時代にFENを聞いてアメリカ音楽にはまったエピソードや、今回の選曲のポイントについてMC。「レッチリやエアロスミスもやりたかったけど、キーが高くてやめた!」と語り、思わず、桑田さんが歌うレッチリやエアロスミスを想像してしまいました。4曲目はThe Associationの「Never My Love」。この曲はコーラス難度の高い曲。それを難なく見事にハモり、観客をうっとりさせてくれました。また、曲のムードに合わせて、淡い色合いの照明が調和し、これまたうっとり。5曲目はThe Byrdsの「Turn! Turn! Turn! (To Everything There Is A Season)」。この曲の演奏中、スクリーンにはベトナム戦争におけるアメリカ兵の姿が映し出されます。そしてステージ両サイドのスクリーンには、英語詞と訳詞。“平和を望むなら、今ならまだ遅くない……”という歌詞が映像と重なり、心がジーンとしました。続いてはThe Lovin’ Spoonful の「Do You Believe In Magic?」。“愛と言う魔法を信じるかい?”と言う軽やかなラヴソング。軽やかな曲のときの桑田さんは、顔も緩んで見えます。そして、Creedence Clearwater Revivalの「Proud Mary」。スクリーンには歌の中に出てくるミシシッピー川を行くスティーム・ボートを始めとしたアメリカ南部の風景が映し出されます。8曲目はThe Bandの「Up On Cripple Creek」。土や牧場の匂いがしてきそうなナンバー。“俺が愛する女は、俺の紅茶の中に、平気でドーナッツを浸すような女さ”と映し出される歌詞に、普段着のアメリカが感じられます。続くはLittle Featの「Dixie Chicken」。Little Featと言えば、桑田さんがアマチュア時代から影響を受けたバンド。だからでしょうか、桑田さんの身体の中に染み込んでいるエキスが、エネルギッシュに爆出したような演奏。特にローウェル・ジョージの魂が乗り移ったかのような歌とスライド・ギターは、まさに真骨頂でした。そして演奏曲目はアメリカ南部の映像とともにLynyrd Skynyrdの「Sweet Home Alabama」、The Allman Brothers Bandの「Ramblin’ Man」へと……どちらもギターが活躍する曲。ギブソン・レスポールの音が、実に気持ちよかったです。12曲目はCrosby,Stills,Nash & Youngの「Woodstock」。映像は、南部の田舎町の風景から一転してサイケデリックな画面に。そう、この曲のテーマである『ウッドストック・コンサート』は、若者達が自分達の力で行った巨大コンサート。自由の象徴とも言えるコンサートであったといえるイベントでした。そのサイケな幻覚をイメージさせる映像は“アメリカの光と影”を映し出していたのかもしれません。続いてMark Lindsay & The Radersの「Indian Reservation(嘆きのインディアン)」。スクリーンには、夕陽を背にした馬上のインディアンのシルエットが映し出されました。“例えネクタイをしてYシャツを着ていても、私の身体にはチェロキーの血が流れている”という内容。桑田さんの力強い歌が、少し、切なくも聴こえました。アメリカのポップスには、先住民族を敬う、このような歌もあるんですね。そして、激しいギターのイントロとともにステージに立ち上がる炎! 曲はJimi Hendrixの「Purple Haze(紫の煙)」。妖しい世界をもつこの曲に合わせて、強烈な仕掛けが用意されていました。炎の中で踊るセクシーなダンサー。ベトナム戦争の爆撃風景。そこに登場する米・日・韓・中・露の各国首脳に扮したダンサーが登場。その5人を、遠くから高笑う北の国の首領様。そして、首領様の合図とともに発射されたミサイルが会場上空を横切りステージに着地。爆発音とともにコケる各国の首脳達! 過激な曲に、なんとも過激な演出が用意されていました。ああ〜ビックリしたなモウ!桑田さんの、その発想力に脱帽です! まるでロック・ミュージカルを観ているような世界でした。


 ここで、ひと休み、MCタイム。メンバー紹介です。ドラムス:河村“カースケ”智康、パーカッション:三沢またろう、キーボード:片山敦夫、キーボード:深町 栄、サックス:山本拓夫、トランペット:西村浩二、コーラス:清水美恵、コーラス:安奈陽子、ギター:中シゲヲ、ベース:角田俊介、ギター:斎藤 誠。以上の順で紹介されました。中でも、桑田さんがキーボードの片山敦夫さんのことを「安倍首相の奥様、昭恵さんにそっくりです!」と言うと、会場は大うけ。確かに似てます! そっくりです! ぜひ、彼の顔写真をご覧ください!

 さて、桑田さんのMCは、思わぬ方向に!「もうすぐ夏だね!」というコメントに、会場はちょっと戸惑いの空気。しかし、その言葉には、ちゃんと次へと続く、意味があったのです。そして“夏だ!海だ!ビーチボーイズだ!”というわけで The Beach Boys特集。「Surfer Girl」「Fun,Fun,Fun」「California Girls」そして「Good Vibrations」の4曲が海と波とサーファーの映像とともに、立て続けに演奏されました。曲に合わせて踊る水着姿の女性ダンサー達。「MONKEY」「SWIM」「SURFIN」「TWIST」など、60年代ダンスが、実にキュート。ところで「Good Vibrations」は、作者のブライアン・ウィルソンでも、あまりに難曲のために生演奏をためらった曲。その複雑な曲を、見事に演奏したバンド、実に立派! きっと、かなり練習したに違いありません。
PIC 場面は、真夏の西海岸から和の世界へ急展開。スクリーンには朱色の鳥居。そして、どこからともなく流れくる読経。会場の客席の後方から、謎の一団が登場。なにやら白狐の花嫁と花婿のようです。まるで能舞台を観ているような幻想的な和の香り。そこに被さる妖異なイントロ。Vanilla Fudgeの「You Keep Me Hanging On」です。この曲は“アート・ロック”なんていわれていました。その“アート性”を、桑田さん風に創り上げた世界は、音楽とヴィジュアルの“涅槃”の境地。そして、The Doorsの「Touch Me」へと突入。その和太鼓のような強烈なリズムに蓮の映像が絡まり、観客は、踊る鳥獣戯画トランス状態に……その余韻を残しながら曲はThe Turtlesの「Happy Together」へと繋がります。祭囃子にも似たビートにあわせて踊る白狐たち。美しいハーモニーに誘われるように降り注ぐ桜の花びら。パシフィコ横浜が、歌舞伎座へと空間移動!

 ここで幻想の世界から、現実の世界に戻りMCタイム。「自分のためにも、好きな人のためにも、エイズの検査を受けましょう!」と桑田さんから、大事なメッセージが語られました。

 ここからはアコースティック・タイム。まずはSimon & Garfunkelの「Mrs. Robinson」。曲中、斎藤 誠さんと中シゲヲさんのアコギ・バトルもあり、原曲よりずっと熱い仕上がり。とても聞き応えのある演奏でした。次はスペシャル・ゲスト。「馬車道からゲストが来てくれました!」との紹介で登場したのは、原 由子さん! なんと健康マシーン「ロデオボーイ」に乗っての登場です。名馬「ロデオボーイ」の餌は、ニンジンならぬ天吉のテンプラ? ここでは原さん、桑田さん、誠さんの3名が、アコースティック・ギターを抱え、Peter, Paul & Maryの名曲「Cruel War(悲惨な戦争)」を歌い上げました。桑田さんの「学生時代を思い出すよな!」とのコメントが示すとおり、大学のキャンパスから聞こえてくるような、青学トリオの素晴らしい歌声、青春時代が蘇る一瞬でした。

 原 由子さんがステージから去ると、スクリーンにはイラク戦争やアフガン戦争の映像。そして、ウクレレのイントロが映像に絡みます。B.J.Thomasの「Raindrops Keep Fallin’ On My Head(雨に濡れても)」です。そう、雨には恵みの雨もあれば、涙を隠す雨もあり、そして、人命を奪う雨も……。雨の曲が続きます。Neil Sedakaの「Laughter In The Rain(雨に微笑みを)」。この曲は、桑田さん愛用のジュークボックスにも入っている曲。桑田さんの愛唱歌です。“傘がないふたりに、雨が降り注ぐ……だけど、確かなぬくもりを感じるよ……”どうせ降るなら、黒い鉄の雨じゃなくて、微笑の雨の方が、ずっと良いですよね。曲数は26曲目。Donald Fagenの「I.G.Y」です。都会的なお洒落なサウンドが、印象的。NYの街角を歩いているような気分になりました。続いてBilly Joelの曲が2曲続きます。「The Stranger」「Allentown」。「The Stranger」では、バブルに浮かれる日本の映像が……途中で「Talk About AIDS」の文字。そして「Allentown」ではアメリカの炭鉱町の風景が……バブルという虚飾の繁栄。炭鉱労働者たちの貧困という現実。繁栄と貧困は常に背中合わせなのかもしれません。ちょっとシビアな「Allentown」の世界に、鈴の音が幸せの風を運びます。クリスマス! クリスマス・ツリーの映像とともに始まったのは、The Carpentersの「I Need To Be In Love(青春の輝き)」。この曲は日本でもテレビドラマの主題歌として使われ大ヒットしましたよね。そのおかげで、会場の観客も声を合わせて大合唱。音楽を通して幸せを分かち合えた瞬間でした。


PIC PIC
 そしてコンサートは佳境へと突入します。強烈なドラムのイントロで始まったのはThe Knackの「My Sharona」。PAの音量が上がるのと同時に会場のボルテージも急上昇。会場はダンスホール状態! 続いて、派手なドラムのイントロ、Grand Funk Railroadの「We’re An American Band」、Kissの「I Was Made For Lovin’ You」。この曲では、Kissメイクを施したダンサーがダンスを、そして、スクリーンにはKissメイクをしたペリー提督が登場。実はペリー提督はKissの祖先? そしてThe Doobie Brothersの「Long Train Running」と続き会場のボルテージは頂上直前! とどめはJ.Geils Bandの「Centerfold(堕ちた天使)」。下着姿の女性ダンサーが、セクシーなダンスで盛り上げ、会場もステージ上も興奮の頂点に達しました!


PIC そして、鳴り止まぬ拍手!そして、アンコール! メンバー全員が、AAAのオリジナルTシャツを着てのアンコール・タイム! アンコールの1曲目は、斎藤 誠さんのギブソンSGダブルネックの12弦ギターから始まりました。The Eaglesの名曲「Hotel California」です。後半のギター・ソロのパートでは、桑田さん、誠さん、中さんのトリプル・ギターの競演。本当に気持ち良さそうにプレイしていたのが印象的でした。アンコールの2曲目は、The Monkeesの「Daydream Believer」。会場は大合唱に! そして、フィナーレは原 由子さんも参加して、Bruce Springsteenの「Hungry Heart」。曲の途中で、一瞬クリスマス・ソング「Joy To The World」のフレーズが挿入される粋なアレンジ。幾度となく繰り返される「Hungry Heart」のリフレイン……そのリフレインとともに、どこからともなく押し寄せてくる熱い高まりを感じました。そして、桑田さんから最後の一言、「また逢おうね!」この言葉とともに、次回のAAAコンサートへの第一歩が始まりました。また逢いたいですね!

 
後記
PIC 今回のAct Against AIDS 2006 桑田佳祐「星条旗よ永遠なれ!? 〜私のアメリカン・ヒーローズ」を一言にまとめれば、“桑田佳祐による、音楽とダンスと映像の一大イルージョン!”でしょうか。視覚と聴覚が同時に激しく刺激された、まさにファンタスティックなショーでした。
 アメリカの音楽を縦軸に、日米の歴史とカルチャーを横軸に、それがかもし出すカオスの世界。そこには、桑田さんの死生観が描かれていたのかもしれません。
 とにもかくにも、目に見えないところまで観客のことを考え、気遣う桑田プロデューサーに改めて敬服したステージでした!

2006年11月30日 
text by 佐藤輝夫  
(from 『桑田佳祐のFMワンダーランド〜やさしい夜遊び』) 

 
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